大阪府学校教育審議会(学教審)は1月11日、大阪府教育委員会に対し「今後の府立高校のあり方等について」の答申を提出しました。これは昨年1月以来13回行われた審議をまとめたもので、8月の中間報告を踏まえた最終報告として出されました。その構成は、中間報告と同じく、第1章「府立高校等を取り巻く現状と課題について」、第2章「府立高校のあり方等について」となっています。
府高教は、中間報告の公表を受けて府高教ニュース第931号(9月24日付)で、問題点を指摘するとともに、自立支援コース・共生推進教室が設置されている高校の分会や障害児学校の教職員組合(大障教)等に呼びかけて学習交流会を開催、現場の状況を踏まえて、批判・検討を行ってきました。
答申の内容は基本的に中間報告と同様ですが、変更、追加された部分もあることから、改めて見解を表明するものです。
(1)入試「二極化」を課題としつつ、競争強化の是非には踏み込まず
公立高校の入学者選抜をめぐる状況について答申は、「公立中学校の卒業者数が年々減少する中、府立高校における学区制の撤廃や選抜制度の変更、私立高校授業料無償化制度の導入・拡充等が行われたことや、各校の特色についての理解が十分浸透しなかったことなどを背景に…高倍率の学校で不合格者が多数生じている一方で、志願割れの学校が年々増加しており、二極化の状況が顕著となっている」と指摘し、「普通科における志願割れについては、その要因が様々にあることを踏まえ、状況を改善していく必要がある」と述べています。
「二極化」の理由について中間報告では「学区の撤廃による流動化」「特色の理解が浸透しなかった」を指摘するのみでしたが、答申では「私学無償化制度の導入・拡充等」が加えられています。しかし、答申は、「3年連続志願者が定員に満たなければ再編整備」とする府立学校条例が制定され、府立高校各校が生き残りをかけた生徒獲得競争に投げ込まれている状況や、経常費助成がパーヘッド方式にされ、生徒獲得競争を強いられた私学の一部が定員を大きく超える専願合格者を出している状況などについては、一切言及していません。
志願倍率の「二極化」は、学区撤廃、進学指導特色校設置などで学校の序列化をすすめ、少子化のもとでも受験競争を激化・広域化させてきたこの間の教育施策の結果であり、その点に踏み込もうとしない答申の認識はきわめて不十分です。
また、子どもたちの「学ぶ権利」を保障するために設置されている府立高校の定員にゆとりがあるのは当たり前であり、一定程度の「志願割れ」はむしろ必要なものです。公立高校のセーフティネットとしての役割を無視し、「志願割れ」を一律に悪と捉え「改善」を求める姿勢は不当です。
(2)「募集学級数6~8」について「弾力的設定」を提言
一方、この間府教委が募集学級数の基本としてきた「6~8学級」について、中間報告では「志願者の多い学校」についてのみ「弾力的に設定していくことが重要」としていましたが、答申では「この間の急激な少子化を踏まえると、今後も地域や志願者等のニーズに応えるためには、公立高校全体の募集状況等を勘案しながら、さらに弾力的に設定していくことが重要」と、募集学級規模の縮小を含めて提言を行っていることは評価できます。
答申には触れられていませんが、審議の中では、中学生の保護者からの意見として、「志望校選択の際に前年度志願倍率が及ぼす影響は大きく、前年度倍率が低い高校を選ぶ傾向にある」「電車だと1時間程度まで、自転車だと30分程度までが志望校選択の目安となる。定期代や駐輪場代を考えると、高校の特色に違いがなければ自宅から近い高校を望むのではないか」との意見も紹介されており、「競争の緩和」、「地域の学校の存続」こそが保護者の「ニーズ」であることは明らかです。
また、答申は、「組織的な中高連携」が重要であるとし、「組織的な地域密着型の連携の仕組み」の構築、府域をいくつかのブロックに分けて「ブロック内で連携」などを提言していますが、そのために必要なのは学区制の復活です。そうした、この間の競争の施策の是正こそ求められています。
(3)高校と支援の併置、新たな高校設置より、支援学校の新設・増設を
答申は、「支援学級に在籍する中学校等の生徒が全日制等の高校に進学する傾向は全国に比べて顕著」「府立高校に在籍する知的障がい等支援を要する生徒が増加」などの状況のもと「必要な支援が十分行き届いていない」として、「自立支援コースや共生推進教室の成果や他府県の事例を踏まえながら、インクルーシブ教育システムの考え方をより具体的・実践的に行う『ともに学び、ともに育つ』高校の設置や、高校と支援学校の併設等について、検討を行うべき」としています。
この問題の背景には、知的障害のある児童生徒数が年々増加しているのに必要な府立支援学校の新設・増設が行われず、支援学校が深刻な過大・過密となっていることがあります。答申の参考資料(図7、図8)はそのことを如実に示しています。ところが答申は、支援学校の新設・増設や過大・過密解消などには一切触れず、新たな「『ともに学び、ともに育つ』高校」の設置や「高校と支援学校の併設」などを提言しており、きわめて不当です。コストのかかる支援学校増設を行わず、高校を障害を持つ生徒の「安上がりな受け入れ先」とすることはあってはなりません。
(4)現行の自立支援コース、共生推進教室の課題に触れていない
現行の自立支援コースや共生推進教室の現場からは、「人員配置が減り負担が増大している」「担当になっても時間軽減がなく負担感が大きい。やりたい人が少なく、新しい人に押しつけることになる」「特別支援の免許もなく保護者の方が詳しい状況で教師としての心が折れる」などの声や、「生徒にとっても、自分に関係ないもの(進路の説明会など)を求められ、同じようにしたくてもできず、悲しい状況」「この子に合った支援とは何か、本当は支援学校に行ったらもっと伸びたのではないかと思う」などの声が噴出しています。
十分な人員や体制の確保がなく、負担感が増大しているというのが現場の実情です。また、単に「場を同じくする」だけでは、真の意味でのインクルーシブ教育にはなりません。障害を持つ生徒一人一人の成長・発達をきちんと保障することこそ重要です。そうした点でも、現行の自立支援コース、共生推進教室は大きな課題を抱えています。そのことに一切触れない答申は不当です。
(5)「専門人材」は常駐での配置を、教職員の人員増こそ求められる
答申は「貧困や虐待等の様々な課題を抱える生徒」の支援策として、専門人材の活用が有効であるとし、「SSW(スクールソーシャルワーカー)による巡回支援など高校全体をカバーしていく仕組み」「教員以外の保健・医療・福祉等の専門人材が府立高校全体をカバーしていく仕組み」が必要としています。また、「日本語指導が必要な生徒」への支援策として「長期・継続的な人材の育成・確保、効果的な配置」について検討すべきとしています。
これらの人材が府立高校全体で必要であるとしたことは評価できますが、「巡回によるカバー」や「効果的な配置」ではなく、必要な人材の常駐での配置が求められています。現行のSC(スクールカウンセラー)についても、各校への配置はきわめて不十分であり、時間数増を求める声が現場から噴出しています。
また、答申は、1章で「教員数の状況」「学校の組織・業務改善等に関する状況」についても分析を行っていますが、その観点はまったく当を得ないものとなっており、異常な長時間過密労働が恒常化していることに対する課題認識はありません。
2章では「学校業務・組織に対する教員の満足度が教育活動や学校運営の充実・活性化につながり、ひいては、生徒・保護者の満足度につながる」との認識を示し「業務・組織の改善」が重要としていますが、具体策には「校長をはじめ管理職のリーダーシップ・マネジメント」「デジタルテクノロジーをより一層活用」などがあるのみで、職場の合意を無視したトップダウンによる学校運営、納得性のない評価育成システムが、教職員の「満足度」を下げている実態については、言及がありません。
(6)生徒獲得競争を前提にした「特色・魅力」づくり、広報強化は教育をゆがめる
答申は「スクール・ミッションやスクール・ポリシーの策定が求められている今を契機として、自校の特色・魅力について改めて見つめ直し、ミッション等を策定するとともに、それらに関する情報発信・共有を行うことが重要」とし、生徒・保護者等への情報発信の強化を求めています。
発信する内容は、「授業や生活指導の内容、部活動や課外活動での取組み、学校生活に要する費用、卒業生の活動、進学・就職状況等進路」などに加えて、「教員や学校に親しみを持ってもらい、学校の魅力づくりにつなげるべく、教員本人の同意のもと、これまでの取組みや実績など教員自身の魅力も情報発信する」などとしています。
また、広報を充実させるとして、「必要に応じて民間事業者等にノウハウの習得や効果測定に係る支援を受ける」また「取組みの一部を任せる」、「大学や企業、卒業生等と連携し、パンフレットや動画の作成など生徒を中心とした主体的な広報を促進する」などが提言されています。さらに、中学校に対し、3年生だけでなく、入学時や2年生時にも広報することを求めています。
市場での生き残り競争を前提に「特色・魅力」づくりをすすめ、民間の広告会社を使い、卒業生や生徒まで動員して広報・宣伝活動を行うなどは、公立高校が行うべきことではありません。こうした教育活動以外の仕事が、現場の負担をさらに増大させることは明らかであり、教育活動そのものをゆがめることも懸念されます。学教審の審議の中では、「どの学校でもきちんとした教育が保障されることが府立高校の最大の強み」との意見も出されました。市場競争を前提に、特色化、広報強化が必要とする結論は不当です。
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